不眠とメタボ 負の連鎖(1)

|

不眠とメタボ 負の連鎖(1)
2008年5月14日(水)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年5月25日号
5ページ中 1ページ目
前のページ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 次のページ


「最近、よく眠れていますか」。医師の診察は、まず患者への問診から始まる(左は内村直尚・久留米大教授)

4月から始まった「特定健診・保健指導」(メタボ健診)にみるまでもなく、メタボの"怖さ"は定着した。放置しておけば、死に至る恐れがあるからだが、実は、「メタボ」には、知られざる双子がいた。それが「不眠」である。眠れない、寝覚めが悪い、日中睡魔が襲う----こんな自覚症状があるなら、要注意だったのだ。

 「起きると肩が重く、おなかがもたれる感じで気分も良くない」

 大手メーカー勤務のトシオさん(38)は、朝いつも憂うつな気分だ。片頭痛もよくある。

 出社の足取りは重い。仕事は設計業務でデスクワークが主体だが、午後になると、「耐えがたい睡魔との闘い」が始まる。顔を洗い、軽く歩いて気分転換を図るが、それでも夕方になると、仕事の効率がガクンと落ちる。

 5年前に異動してから寝床に入っても寝付けず、朝早く目が覚めてしまうといった症状が出た。心療内科に通院し、睡眠薬の処方を受けているのだ。

 職場の人間関係は良好だが、納期に追われる仕事のため、ストレスは強烈だ。残業は多い月で100時間を超える。酒は付き合いで月1回程度、たばこは吸わず、間食もしない。だが、残業を終え、夜中の12時ごろ、独身で一人暮らしをする自宅に戻ると、「ホッとして、猛烈な空腹を覚え、カップめんかコンビニ弁当を食べてしまう」生活。就寝は午前2時ごろになる。

 そんな生活を続けた結果、身長は168センチで、異動前には70キロ台だった体重がいまや88キロ。腹囲も95センチとなる、日本肥満学会が「内臓脂肪型肥満」と位置付ける男性の腹囲85センチを楽々クリアしている。 
夜食ドカぐいサラリーマン
 血圧は150〜90ミリと、高血圧気味で、中性脂肪やコレステロール値も高い。「生活習慣病の予備軍」と不安だし、「食べると太る」のはわかっているが、空腹には勝てない。しかも、ついつい、から揚げやとんかつ弁当を選んでしまう。

 「休日は疲れ切っていて、自宅で寝て過ごし、映画を見ているうちに終わる」。趣味のツーリングも、最近は行く気力がわかない。そもそも運動の習慣は学生時代からない。

 粥川裕平・名古屋工大保健センター長のもとには、最近トシオさんのようなケースの患者が多数訪れる。

 とりわけ目立つのは、ハイテク企業で働くサラリーマン。トシオさんの場合、過重労働による慢性的睡眠不足が続いて疲労性抑うつ状態が生じ、過食による肥満、高血圧の診断となった。放置すれば、数年から10年の間に脳こうそくや脳出血、心臓疾患による突然死、過労死の心配もあるほか、現在は完治しているうつ状態がぶりかえして自殺の危険すら考えられるという。
続きを読む : ここで、注目してほしいのは・・・

不眠とメタボ 負の連鎖(1)
2008年5月14日(水)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年5月25日号
5ページ中 2ページ目
前のページ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 次のページ


 ここで、注目してほしいのは、トシオさんの場合、要注意項目の肥満と高血圧はさることながら、不眠によって医療機関にかかったことだ。「不眠」は、ごく普通のトシオさんのようなサラリーマンにとってごく当たり前の症状なのだ。

 内村直尚・久留米大教授(精神神経科)が、35〜59歳の男女勤労者ら延べ1万7696人を対象にアンケート調査を行ったところ、4人に1人が不眠で悩んだ経験を持っていることがわかった。「寝付きが悪い」「眠りが浅い」「朝早く起きてしまう」----。生活の夜型・24時間化、ストレス社会化などから、日本人の睡眠時間は40年前に比べて約1時間減少し、何らかの睡眠上の問題を抱える人は増えつつあるとされる。

 睡眠改善薬が初めて薬局で買えるようになったのは、2003年4月。発売直後から睡眠に問題を抱える人たちが飛びついた。

 矢野経済研究所によると、市販薬を含む睡眠薬の年間市場は04年度で649億円。10年度に推計1220億円と倍増し、12年度には1450億円まで伸びると見ている(06年時点の推計値)。

 これについて、同研究所では、「睡眠時無呼吸症候群による居眠り運転が社会問題となり、運転手に睡眠検査を義務づける公共輸送機関も増えるなど不眠への意識が高まっている。市販の睡眠薬も気軽に買える時代になり、今後も需要は伸び続けるだろう」と指摘する。

 一方、メタボリック症候群とその予備軍は全国で1900万人といわれる。「不眠でメタボ」な人がどのぐらいいるかは、不明だが、ある専門家は推計600万人近くではという。
不眠で間食体重140キロに

 40歳代の企業の管理職、ユミコさんの場合、さらに事情は深刻だ。

 連日の激務で、休日もなきが如し。ベッドに入っても緊張が解けずに3時間程度しか眠れず、何年間も熟睡感がない。朝から頭痛に悩み、一日中眠いが、責任ある立場で仮眠を取る余裕もない。

 そこで、眠気覚ましのため、始終飲食物を口に入れるようになった。「濃いコーヒーに紅茶、せんべいやチョコなどの菓子類、食べるのをやめたら眠ってしまいそうだ」という。ストレス解消にもなる。

 夜は宴席もあり、深夜に帰宅後は軽食を取る。運動する時間的余裕もなく、体重は5年間で91キロから140キロに増えた。

 愛知医科大学病院の睡眠医療センターで検査入院すると、重度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された。SASは「不眠」と「メタボ」の典型例の一つ。SASの2人に1人はメタボと言われる。
続きを読む : SASは、大きないびき、昼・・・

不眠とメタボ 負の連鎖(1)
2008年5月14日(水)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年5月25日号
5ページ中 3ページ目
前のページ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 次のページ


終夜睡眠ポリグラフ検査のデータを目視解析する臨床検査技師(愛知医科大病院で)

 SASは、大きないびき、昼間の強い眠気、倦怠感などが特徴で、高血圧や不整脈などの合併症を起こすこともある。眠っているときに繰り返し呼吸が止まり、その度に脳が起きて呼吸するよう命令するため、熟睡できない睡眠障害の一つだ。

 推定患者数は約300万人。睡眠中に起こるSASは自覚しにくいが、大いびき、強い眠気、そしてメタボの合併はSASの3大徴候である。

 ユミコさんの場合、1時間で131回も呼吸が止まっていた。太りすぎが原因で、のどの筋肉が気道をふさぐ形になっていたのだ。

 「眠気を払うため、あるいはストレス解消のため過食してしまうのは、広い意味での摂食障害の一つとも言える」

 治療にあたった日本睡眠学会副理事長の塩見利明・愛知医科大教授は、そう話す。

 山陽新幹線運転士が03年2月に居眠りしたまま、最高時速約270キロで31キロ走行したトラブルがあり、この運転士がSASで注目を浴び始めた。その後も、山口県沖の周防灘で05年7月、広島県の貨物船が液化ガス船と衝突し、重油が流出した事故でも、事故原因は、航行中に見張りをしていた貨物船1等航海士がSASだったという。

 「睡眠不足」と「生活習慣病」。このどちらもが、もう一方の症状を呼び込んで健康を害しやすくなる。

 兼板佳孝・日大准教授(公衆衛生学)は、2万1693人分の職場健診データから、不眠とメタボの"双子関係"を初めて明らかにした。
相互に健康悪化招く悪循環

 兼板准教授は、1999年にBMIが25未満で肥満ではなかった人の99年と06年の健康診断データを比較調査した。

 その結果、両健診で5時間以上眠っている場合を「基準」とした場合、両健診とも短時間睡眠(5時間未満)だった人は1・36倍、7年後に5時間未満に減少した人は1・33倍、肥満になりやすかった。

 高血糖の発症についても、両健診ともに短時間睡眠であった人は、「基準」の人より1・27倍なりやすいことがわかった。動脈硬化の発症に関連する高トリグリセライド血症(脂質異常)も、99年に5時間以上眠っていて06年に短時間睡眠になった人は、基準の人より1・42倍なりやすかった。

 睡眠時間と血糖値、血清トリグリセライド(中性脂肪)の数値の関係は、睡眠6〜8時間を底とするU字型を描き、血清HDL(善玉)コレステロール値は逆に山型となる。メタボから睡眠時間を見る限り、長すぎても短すぎても好ましくなく、ほどほどが良いことが推測される。
続きを読む : 兼板准教授は、「短い睡眠・・・

不眠とメタボ 負の連鎖(1)
2008年5月14日(水)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年5月25日号
5ページ中 4ページ目
前のページ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 次のページ


 兼板准教授は、「短い睡眠時間は、肥満、糖尿病、高トリグリセライド血症といった生活習慣病を発症する危険因子となり、逆に肥満も短時間睡眠の危険因子となる。相互に悪循環を招いて病状が悪化していく可能性がある」と指摘する。過眠(睡眠9時間以上)の場合も、データ上は生活習慣病との関連性が見られる。

 内村教授は、「起きている時間が短いと身体の活動性が下がり、代謝も悪くなる結果、二次的に肥満になることが考えられる。SAS、うつ、精神疾患の人も長く眠る傾向がある」と見ている。

 SASについても、

 「太ると舌は霜降りの牛タン状態になり、仰向けに眠っているとき、気道をふさいでしまう。日本人は下あごが小さく、気道が狭い人が多い。40歳を過ぎると、あごの筋肉がゆるみ、口を開けて眠ると、気道の直径が半分になる」

 と説明する。肥満を治せば、治るか症状が軽快する。

 メタボリックシンドロームは、肥満に加え、糖尿病、脂質異常症、高血圧のうち二つそろった場合、そうと見なされる。なぜ、不眠とメタボが関連するのか。別の角度からも、見ていきたい。

 グラフは、この「メタボ」と「不眠」の双子が、どれほど恐ろしいかをわかりやすく示した図だ。 

[拡大]
不眠はメタボどころか万病の元だった

 内村教授が、06年12月に行った第3回調査(有効回答者数5997人、平均年齢44・8歳)では、不眠で悩んだ経験のある人は1668人(28%)で、このうち、メタボ(生活習慣病)だった人の割合は57%に上った。不眠ではない4329人(72%)のうち、メタボだった人は50%とやや少なかった。

 一方、メタボの人3092人(52%)のうち、不眠に悩んだ経験のある人は31%。メタボではない人2905人(48%)中、不眠だった25%を上回った。

 うつの人285人の場合、メタボが58%もおり、強い相関性がうかがえた。さらに不眠でうつだった人206人の場合は、自殺を考えた経験がある人が26%に上った。

 睡眠と密接な関係がある「夜間頻尿」を見てみると、メタボの3092人のうち、2割が睡眠中に2回以上トイレに行く「夜間頻尿」だった。夜間頻尿の回数が増えれば睡眠の質が悪くなるうえ、再び寝付けなくなることもある。不眠とメタボは、症状が複合的に悪化することがわかる。

 メタボ同様、不眠も万病の元なのだ。 
続きを読む : 不眠の経済損失年3兆500・・・

不眠とメタボ 負の連鎖(1)
2008年5月14日(水)0時0分配信 読売ウイークリー
掲載: 読売ウイークリー 2008年5月25日号
5ページ中 5ページ目
前のページ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 次のページ

不眠の経済損失年3兆5000億円

 メタボな人が健康を取り戻すのも、SASを解消するにも、何より重要なのは、肥満解消である。

 これは決して個人の問題ではない。前出の輸送機関の運転士らの例を見ても明らかなように、問題を放置すれば、重大な労働災害、交通事故につながりかねない問題なのだ。

 内山真・日大教授(精神医学)の調査によると、不眠による交通事故や生産性の低下から生じる日本の経済損失は、年間で推計3兆4694億円に上る。

 世界を見渡せば、チェルノブイリやスリーマイル島の原発事故、スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故も、作業関係者の睡眠不足が原因の一つになったとされる。

 が、ダイエットに励んだ経験のある人なら誰でも経験があるはずだが、食欲を抑えるのは非常に難しい。無理やり我慢すればストレスがたまる。無理なダイエットは健康を害し、結果的にリバウンドする。

 それに加えて、睡眠不足だと減量のハードルが一層高くなる。内山教授によると、睡眠不足になると、満腹感を与えて食欲を抑制するホルモン「レプチン」の血中濃度が下がる一方、食欲を増進させるホルモン「グレリン」の血中濃度が上がる。

 いずれも摂食行為を制御する重要な因子だ。グレリンは99年に日本人研究者が発見し、"腹ぺこホルモン"の異名もあり、不眠症の人の減量を困難にさせてしまう。

"双子"の死亡因子である不眠とメタボ。アリ地獄に陥れば、健常体を取り戻すのは容易ではない。個人のそしてニッポン社会が、心と体の健康を保つために、「睡眠」が何より大切なのである。

(文中カタカナ名は仮名)

続きを読む

http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/yw-20080514-01/1.htm
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/yw-20080514-01/2.htm
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/yw-20080514-01/3.htm
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/yw-20080514-01/4.htm
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/yw-20080514-01/5.htm


このブログ記事について

このページは、hisaが2008年5月14日 00:00に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「 奥様の心の健康に注意 香山リカのココロの万華鏡」です。

次のブログ記事は「080413 朝食食べ損なったので断食ごっこ(昼間だけ)」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

最近のブログ記事