<<参照 紙面より>>
2010年1月28日 18時17分
薄いサンダルを履いて走るタラウマラ族のランナーたち(メキシコ、チワワ州で2005年1月に撮影)。
Photograph by Marcos Ferro, Aurora Pictures, Alamy
裸足になった方がいいのは、浜辺を散歩するときだけではないようだ。裸足で走ると足にかかる負担が減り、普通の靴を使うランナーを悩ますけがを防げる可能性のあることが、最新の研究で明らかになった。
クリストファー・マクドゥーガル氏は、ベストセラーとなった自身の著書『BORN TO RUN』(邦訳は日本放送出版協会より刊行予定)の中で、メキシコのタラウマラ族こそ世界最高の長距離ランナーだろうと述べている。タラウマラ族はチワワ州にある人里離れた峡谷地帯カッパー・キャニオンを裸足やサンダル履きで走り抜けて速さを競う。
今回発表された研究では、高速度ビデオカメラと床反力計と呼ばれる体重計ほどの大きさの装置を使用して、63人のランナーがそれぞれ裸足で走った時に足にかかる負担の変化を細かくデジタル計測した。その結果、裸足で走ると足の着地の仕方が変わることがわかったのだ。
靴を履いているランナーはかかとで着地する傾向があるため、スポーツシューズのメーカーは長い間、靴のかかと部分にジェルや泡状の物質、あるいは空気を入れて、かかとに伝わるインパクトを和らげる靴の開発に取り組んできた。
しかし、裸足で走るランナーは、つま先の付け根に近い部分で着地することが多い。そのため、足が最初に着地したときに地面を瞬間的に捉える足裏部分の面積が小さくなる。その結果、足先と脚部が自然にバネのように動いて、それ以上のショックが吸収されるのだという。
「このような着地の仕方をすると衝撃がほとんどなくなる」と、ハーバード大学の進化生物学者で今回の研究を主導したダニエル・リーバーマン氏は、電子メールの取材に対して説明する。また、裸足で走ることにこのようなメリットがあることは驚きではないとして、次のように述べている。「人間は数百万年もの間、裸足かサンダルだけで走ることができていたのだ」。
今回の研究を「非常に興味深く、また役に立つものだ」と評するのは、コーチングサービスを手がける運動生理学者で、作家でもあるジャック・ダニエルズ氏だ。同氏は電子メールでの取材に対し、「けがの大きな原因が(地面から受ける)衝撃であることは間違いない」と述べ、けがを減らすことはあらゆるランナーおよびコーチにとって重要な目標なのだと語った。
ダニエルズ氏自身、走るときはたいてい裸足だという。「私はついに、コンクリートの歩道の上を裸足で8キロ走ることができるようになった」と同氏は言う。もっとも、芝生の上や弾力性の高い陸上トラックの上を走る方が本当は好きなようだ。
しかし芝生や陸上トラックの上でも、裸足で走るには練習が必要だという。「大きな問題は皮がむけてしまうことだ。足の裏の皮膚を強くする必要がある」と同氏は語った。
しかし、幸いなことに、靴を履くか履かないかの選択を迫られることはそのうちになくなりそうだ。シューズメーカー各社が、"最低限"の薄さながら岩やガラスの破片などから足を保護し、人々がもっと自然に走れるような靴の開発にしのぎを削っているからだ。
「厚いシューズから始めて、それを少しずつ薄くしていったら、どの時点で人間は裸足のときと同じように走り始めるのだろうか」と、シューズメーカーのニューバランス社で先進的製品技術およびスポーツ研究担当マネージャーを務めるショーン・マーフィ氏は問いかけてみせた。
「当社はこうした研究を終え、どうすれば足をできるだけ自然に近い形で動かしながら(足を)さまざまな危険から守ることができるかという問題に関して非常に確かな研究成果を導き出した。今後、このような方向性の製品を次々にお見せできると大いに自信を持っている」とマーフィ氏は語った。
この研究は2010年1月28日に「Nature」誌オンライン版で発表された。
Richard A. Lovett for National Geographic News
http://www.excite.co.jp/News/column/20100128/Nationalgeo_20100128003.html