「うり坊」という名前の猫がいた。
「ニク」と同じ頃だが、詳しい事は覚えているつもりでもけっこう忘れるものだ。
うり坊は名の通り体側に渦巻き状の模様があり、色は茶だった。本当のうり坊(イノシシの仔)は焦げ茶だが、うちのうり坊はチャトランの色だ。腹は白い。
うり坊も、雄だ。
うり坊はニクと異なり、ぐにゃぐにゃな猫だった。
私が両手を体側から腹に回し持ち上げると、アンコウの様に、ダラーんと伸びきる。
手足が床から離れるのには、胴体が逆V字に折れ曲がるまで持ち上げないとならない。
そう言う姿勢になっても全然苦しくはない様だ。
身体密度はすごく薄く、ほにゃほにゃに軽い。ダッコするとこちらまで脱力してしまう。
小学生くらいの子がうり坊をダッコしようとすると、つかみ所がないから脇の下に手を回す感じで縦型になるが、うり坊はデローンと伸びて床に後足が着いたままになる。
子供は笑って力が抜けてしまう。
台所の調理台に前足が掛かったから、その当時の猫にしてはけっこう大きかったのだと思う。今にしても大きい部類に入るだろう。
家の猫とも、外の猫ともケンカはしない。怖いところからは自分から離れるタイプだ。
腹の白がまぶしいくらいにきれい好きで、すごく人なつこく、「ねぁおん ねぁおん」と鳴いて、おねだりが上手だった。
歩くと一緒に付いて来て、脚に絡んで離れない。
あまりにも絡み付くので、踏みそうになって、こっちが転びそうになる。
本当に転ぶと寄ってきて、「ねぁおん」という。心配しているみたいだ。
怒られても同じことを繰り返す。
お客さまが座っていると、自分からダッコする。
初めてのお客さまでもおかまいなしだ。その人が猫を好きかどうかなんて、全然関係ない。
決して人の事を疑わない。
うちの猫は歴代雑種で、当時はあまり避妊などしていなかったので、ほぼ毎年産まれていた。
予防接種などもきちんとなかった頃なので、数年で代替わりしていた。今みたいに15歳の猫なんて、全く考えられない時代だった。
ほんの20年前だ。いや30年前か? いや、もっと前か?
でも私は、東京オリンピックは知らない。
不思議な事に、同じような色模様の猫は何代か続く。
そういう同じような色模様の猫は、なぜか同じような体質で、同じような性格だ。
うり坊も、何代か続いて何匹かいて、どれが本当のうり坊なのか今となっては覚えていないのだが、どのうり坊もぐにゃぐにゃで、「ねぁおん ねぁおん」と鳴いて、ダッコされるのが上手だった。
そう言えば、うり坊は全て雄だった。