筋肉の説明 4、筋の腱化

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・速筋は遅筋化する。
・遅筋は腱化する。

と言われている。

 これは前述のエネルギーの消費を抑えるという事からは正しい進化であろう。


 これらを実証するものとしてあげられるものとしては、

 高齢者の筋肉は、若年者よりも遅筋割合が高く、また腱の割合も高いというのを見かけた覚えが有るが、ソースを覚えていないのと、どのように比較したのかは分からない。
 何かが分かったらここに足したいと思う。

 ウサギを使った動物実験がある。
 ウサギは主に速筋が多い動物と考えられているが、それに EMS で微弱な電流を流し続けたところ、3週間くらいで全身が遅筋化し、身体も小さくなった、というものである。
 速筋は使わないで微弱な刺激だけを加えると、減ってくるのである。
 これは石井直方先生がお話しされているものである(エビデンスの番号等は不明)。


 次のような事も言える。
 
 姿勢を保持する筋は遅筋が多いとされるが、これは常時エネルギー(力)を発生させる必要が有るからである。
 頭脳が常に姿勢保持を考える訳ではなく、筋紡錘体が引き延ばされると姿勢がどちらかへ傾いているなと感じ、自働的に調整するものである。
 http://hisajp.info/2008/11/post_114.html (横突棘筋の欄参照) 

 このような際に筋は収縮してエネルギーを発生せざるを得ないので、それであれば腱化してしまえば腱のストレッチ書とニングサイクルと変わりエネルギーの消費は無くなる(少なくなる)ので、生体としてはその方が効率的である。

 そのような過程で、姿勢保持を司る筋は遅筋が多くなり、またやがて遅筋は腱化すると考えられる。
 
 
 
 さて、ヨガやピラティスのようなエネルギー消費量の少ない運動や、ウォーキングやジョグやエアロビなどのもうちょっと消費が多いと思われる運動の場合、これらが該当するかと言うと分からない。
 エネルギー消費としてみた場合は上の方の例に該当すると言えるが、それだけを3週間し続ける訳ではないのと、前者は伸展させたら暫く保持であり微弱に動く訳ではない事や(実際はぷるぷる動いているのかもしれないが)、後者は着地による重力的な衝撃が加わることからも、単に直結させることはできないであろう。

 また、これらの運動の場合は、微弱な運動による刺激で筋のカタボリック(分解)に働くホルモン(グルココルチコイド。コルチゾールやコルチゾンなどなど)の分泌も増えると考えられる。
 これらは簡単に言うと、脂肪でもグリコーゲンでも筋タンパクでも、何でもエネルギー化するホルモンと言えるので、生命の維持としては正しい方向なのだが、筋量を増やしたり維持したい場合にはあまり都合が良くない。


 また、腱化したら身体は固くなるので、腱化をさせない様にするのが柔らかい身体を保つ事が必要となる。
 そうなると、時々見かける「○○でしなやかなカラダ」というのは、微弱なエネルギー消費の運動では合わない話しとなる。


http://hisajp.info/2008/11/post_117.html


http://hisajp.info/2008/11/post_119.html

コメント(3)

 はじめまして。Googleで”筋肉の腱化”を検索していてこの記事にたどり着きました。
私は中国武術を学んでいるのですが、まさに一連の記事で語られていた内容(長時間の静止状態の保持など)を、逆に意図的に行うことで全身の腱を強化し、SSCの効率を極限まで高めるような訓練が行われています。方法は明確なのですが、生理学的にきちんと説明するものがなく、情報を探していました。こちらのブログほど詳細に語られているものを見るのは初めてで、とても興味深く感じられました。
 もしよろしければ、この内容について詳しく語った本、もしくは論文などの資料を教えていただけないでしょうか。元ネタを探るようで不躾かとは思いますが、ご寛恕のほどよろしくお願い致します。

 Ticktockman さん、コメントありがとうございます。

>・速筋は遅筋化する。
>・遅筋は腱化する。

 この2件は、エビデンス番号は手もとに無いのですが、東大の石井直方先生の著書などで述べられています。
 また、今回の記事は、PNF ストレッチの理論や、小山裕史先生の初動負荷理論なども、参考にさせていただいています。

 生理学は一つ一つの具象の追求はしやすいものですが、実際の身体活動は二つ以上の要因から成り立っている事がほとんどなので、一つ一つを捉えて行く生理学で全体を証明するのはほぼ不可能と思います。

 今回の例で私はいくつかの理論を参考にさせていただいて詰めていったのですが、Ticktockman さんのされている方法とはある意味逆で、短時間の力の放出で筋肉そのものの柔軟性を増加させることを狙っています。
 これらでは筋肉の柔軟性は増し、また筋収縮スピードは向上するだろうと経験的には言えるのですが、実際の動きでは SSC も同時に行われ、またそこに関節の可動範囲なども関係してくるので、筋肉はその要因の一部として見ています。
 しかし筋肉が影響の与える範囲は、一つの要因としては他のものよりは広いのじゃないかと考えています。

 現場では結果や方法論が先にあることが多く、研究としてはそれらを追いかけて原因を探るというアプローチになると思います。
 現場で行われている様々な方法を中~長期間でデータ取りし、それを数値で追って行くと見やすくなると思うのですが、こういう総合的なものは様々な要因が相関し合ってますから、かなり難しく、かなり楽しいと思います。

 答えになってなく申し訳ないのですが、それぞれから総合的に勘案しています。

 なるほど、まずは石井先生の著書をあたらせて頂きます。
 仰る通り身体の働きは総合的で、ほとんど複雑怪奇です。ある観点から見ると誤りだと断じられるような方法や考え方が、別の理論やエビデンスを通してみることで違った意味合いを持ち、自分の認識全体がひっくり返されたような経験も何度かあります。
 また、伝統的な分野にありがちな、「確かに効果は出ているのだが何が起こっているのか分からないもの」が多くあるため、理解をより深めるべく、試行錯誤しております。その過程で、あまり話題の中心になることのない腱について着目するようになりました。(たとえばSportsmedicine誌における福永哲夫先生の筋腱複合体の研究などですね。)今回のhisaさんの記事からも、また新たな視点を得ることができたと感じております。
 長くなりましたが、丁寧なご返答、ありがとうございました。

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このページは、hisaが2008年11月 7日 09:27に書いたブログ記事です。

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