骨格筋量が最大まで増えると筋出力の効率が落ちる
前ページの話しと異なるが、
「骨格筋量が最大まで増えると筋出力の効率が落ちる」
というのもある。
本当はこの辺りは骨格と筋の話しで書くべきであるが、それを書ける迄私が至っていないので、先にここで書きたい。
筋にはいくつかの形状があるが、このような例はすべてに該当する訳ではないが、主な骨格筋には当てはまりやすい。
紡錘筋の例
紡錘筋の代表は上腕二頭筋(力こぶの筋)で、これは「わらずと納豆」のような形をしている。他には大腿二頭筋(裏もも)なども知られている。
この筋のなかのそれぞれの筋線維は筋肉と同じ方向に伸びていて、筋の中央部が太く両端が細くなり腱となって骨と骨に付着していている。
筋線維の収縮と、筋の全体の収縮が同じ比率で起こる。
紡錘筋は骨の上に乗っているようなものなので、全くの紡錘状になる訳ではない。まな板の上にタラコを一腹乗せたみたいに、上側は紡錘状だがまな板に接している面は平面となる。
そうすると、骨に面している方は収縮するとそのまま 100% 力が発揮できるが、骨から離れている側の力効率は悪くなる。
これは筋が太くなるほどこの傾向は強まるので、骨格筋が肥大していくほど断面積がふえても骨格末端から発揮される出力は増えなくなり、やがて飽和する。
しかし、筋そのものの収縮力は断面積の増加とともに増えていくので、骨への負担は比例して増えるとなる。
そのため「筋トレで骨折」という話しもあり得る。
羽状筋の例
羽状筋の代表は大腿四頭筋(前腿の筋)である。
これは「羽」のような形をしていて、左右の両端から中央に向かって斜めの方向で筋線維が纏まっている。
筋線維が収縮すると、筋の中の羽の方向で収縮し、それが全体で纏まって、筋の全長方向が収縮する。
筋線維が1縮んだとして、筋全体としては 0.5 くらいしか縮まない。
そのため筋の生理断面積当たりの力は、紡錘状筋よりも強い。
バレーボールのような相手の動きを見てジャンプする様な場合に、一気に動きやすい。
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\l/
\l/ この \/ がそれぞれの筋線維。
\l/ 真ん中の l に力が集まり、上下に力が発揮される。
\l/ これらすべての筋線維が纏まって1つの筋肉を成し、筋力を発揮する。
\l/
l
このそれぞれの筋線維の角度を「羽状角」と呼ぶが、それが浅くなってくると筋線維が縮んでも実際の全長の収縮の効率が悪くなる(真横に広がるのだと、力が合成されなくなる)。
筋線維が最大に肥大してくると、それぞれの筋線維が太くなるので、ひしめき合って羽状角が浅くなる様な感じである。
そうなると上の紡錘状筋と同じ様に、力の発揮効率が悪くなってくる。
膜状の筋などではこれらが該当しにくい
骨と骨の間を結ぶ膜状の筋には、横隔膜や腹直筋、肋間筋のような部位がある。それぞれの正式な呼び名は膜筋や多腹筋などと呼ばれる。
このような筋の形状は肥大しても動きを妨げるほど厚くならないし、また、起始部停止部も筋肉と同じくらい長いため、肥大する事により力の効率が下がると言う事はあまり考えられにくい。
筋肉中の筋線維以外のコラーゲンなどが増える事もある
筋肉はすべてが筋線維な訳でもなく、筋線維の間にコラーゲンなどの物質が増える事もある。
これは筋肥大トレーニングなどを行い筋線維を破断をさせると、その補修(筋のタンパク同化作用)がすぐには済まないためとりあえずコラーゲンで満たす事が多い。
筋線維の修正が直らないうちにこれを何度も繰り返すと、そのコラーゲンはある程度長い間そこにとどまる事が多い。
そうすると、筋の断面積が増えても実際に力を発揮する筋線維がすべででないため、出力は増えない事がある。
これらにより、筋の断面積が増えてもある程度以上は有効な力として発揮されない事もあり、またコラーゲンで太くなったときは筋線維の力の発揮そのものが強まらない事もある。
骨格筋量が少ない方が力発揮効率は高いと言えるが、安全や活動の為にはある程度多い方が良い
このように骨格筋は量(正式には断面積)が増えても、ある程度以上は有効に働けないとなってくる。
そのため、筋の力発揮の効率だけで言うと、「筋肉が少ない方が効率は高い」とも言える。
しかし人間には、直接の身体行動活動に使われない頭や内臓のような部位もある為、これは活動時には負担となっている。
筋肉量が人よりも少ないと、それらを支えるだけで筋肉の力のほとんどを発揮してしまう様になる。
高齢者の方で筋の総量が減ってくるとこのような具合に近くなる。
また、首のムチ打ちのような症状も増えやすくなる。
そのため、筋肉の出す力の効率としては少ない方が高いと言えるが、通常の身体活動の安全の為の必要な筋肉量、それを大きく越えてのスポーツやビルディングなどに必要な筋量と言うのはそれぞれ異なる。
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